沖縄の美容医療を患者さんの立場から考える ー第5回 万一トラブルが起きた時、誰が責任を持つかー
いちばん聞きにくくて、いちばん大切な質問
カウンセリングで、こう尋ねたことはありますか。
「もし、うまくいかなかったら、どうなりますか?」
聞きにくい質問です。施術を受ける前提で話が進んでいる場で、わざわざ後ろ向きな話を持ち出すのは気が引けます。「私はやる気がないと思われるかな」と遠慮してしまう方も多いと思います。
ですが、この質問への答えこそが、そのクリニックが信頼に値するかどうかを判断する、もっとも確かな材料です。
※ ただし、後述のように「(確実に)良くなるなら、左右対称になるなら施術を受けます。」とは意味が異なります。施術には一定確率でリスクを伴い、それを受け入れられない場合は当クリニックでの対応は困難であり、お断りしております。実際にそのような希望をおっしゃる方は時々いらっしゃいます。
今回は、美容医療で起こりうるトラブルの種類、合併症が発生したときの実際、修正手術をめぐる現実、そして患者さんが事前に確認しておくべきことをお話しします。シリーズの中でいちばん重い内容になりますが、知っておく価値のある話です。
美容医療にも「合併症」は起こりうる
まず、はっきりさせておきたいことがあります。
どんなに経験豊富な医師が、どんなに丁寧に施術を行っても、合併症は一定の確率で起こります。ゼロにはなりません。それは有名大学教授であっても、有名大手美容クリニックのドクターであっても、私も同様です。
医療において、合併症をゼロにできる治療は存在しません。これは保険診療でも自由診療でも同じです。某ドラマのように、「絶対安全」「絶対失敗しない」と宣伝するクリニックがあるとすれば、それは医学的に誠実な説明ではありません。
また、患者さんにもその心構えができていないことをよく経験します。合併症のところは事前に話をしてもスルーで、100%上手くいくことが前提で施術を受け、少しでも何かあると不満を言われることを時々経験します。医学的にうまくいっていても言われることがあります。これはお互いにとって精神的に良くないものですね。私自身も事前に患者さんに心構えを持たせるような説明ができてなかったと反省もありますが、どんなに時間をかけても受け入れさせることが無理なケースも経験します。
美容医療で起こりうる合併症には、たとえば次のようなものがあります。
注入治療(ヒアルロン酸、ボトックスなど)
- 内出血、腫れ、しこり
- 左右差、想定と異なる仕上がり
- 血管塞栓(血管に薬剤が入り、皮膚壊死や、ごく稀に視力障害を起こすことがある)とそれに合併する弊害
- アレルギー反応
レーザー・光治療
- 火傷、色素沈着、色素脱失
- 一時的・恒久的な瘢痕(きずあと)
- 単純ヘルペスの誘発
手術系(二重、鼻、脂肪吸引など)
- 感染、出血、血腫
- 創部の離開、瘢痕の異常な肥厚
- 左右差、想定と異なる仕上がり
- 神経損傷による知覚異常、痛み(CRPSなど)
- 脂肪吸引における重大な合併症(肺塞栓、脂肪塞栓、大量出血、腸管損傷など)
確率は施術ごとに異なります。多くは軽微で時間の経過とともに改善するものですが、中には命に関わるものもあります。前回までに触れた2023年大阪の死亡事案も、脂肪吸引中の出血への対応が遅れたことが原因とされています。
「合併症が起きたとき、何が起きるか」
合併症そのものよりも深刻なのは、合併症が起きた後の対応です。ここに、クリニックによる大きな差が現れます。
国民生活センターには、こんな相談が繰り返し寄せられています。
二重整形を受けたが、左右差が大きく、また糸の結び目が皮膚から透けて見える。クリニックに連絡したが、「経過観察してください」と言われるばかりで、対応してもらえない。再施術を希望すると、「再手術料が別途必要」と言われた。
脂肪溶解注射を受けた後、注射した箇所がしこりになり、半年経っても消えない。クリニックに相談すると、「個人差です」「マッサージしてください」と言われるだけ。担当した医師に直接話したいと申し出ても、「もう退職しました」と言われた。
これらの相談には、いくつかの共通したパターンがあります。
パターン1:担当医がすでにいない
大手チェーンのクリニックでは、医師の入れ替わりが激しいことがあります。施術から数か月後に修正を希望して訪れると、担当した医師がすでに退職していて、別の医師(あるいは、もはや誰も)が責任を引き継いでいない、という状況です。
形式上はクリニックが責任主体ですが、実際に施術した医師しか分からない情報(その日の細かい判断、組織の状態、使用した量の詳細など)が失われると、修正対応そのものが難しくなります。
パターン2:「合併症ではなく個人差」と言われる
明らかに想定と異なる結果が出ていても、「これは合併症ではなく個人差の範囲」「お客様の体質によるものです」と説明されることがあります。
「合併症」と認めると、無償での再施術や治療費負担が発生する可能性があるため、表現を選ぶクリニックがあるわけです。患者さん側から見て、何が合併症で何が個人差なのか、線引きが分かりにくいのが実情です。
パターン3:修正が「別料金」になる
「修正手術は別途料金がかかります」──これは多くのクリニックで起こることです。
ただ、契約前にこの点が説明されていたかどうかで、印象は大きく変わります。「想定と違ったら、修正には別途○万円かかります」と最初に説明されていれば、納得できることもあります。説明がないまま施術を受けて、後から請求されると、トラブルになります。
パターン4:他院では対応してもらえない
これがもっとも深刻なケースです。
ヒアルロン酸の血管塞栓、感染、皮膚壊死──こうした合併症が起きたとき、施術を行ったクリニックが対応できない(あるいはしない)場合、患者さんは他の医療機関を探すことになります。
ここで、形成外科という診療科の存在が大きくなります。
形成外科専門医が「最後の砦」になる現実
少し業界の内側の話をします。
美容医療で起きた合併症のうち、専門的な対応が必要なケースの多くは、最終的に形成外科専門医がいる施設に運ばれます。地域の大学病院の形成外科、基幹病院の形成外科、そして開業している形成外科専門医のクリニックです。
なぜ形成外科か。
第2回でお話しした通り、形成外科の研修期間は、皮膚壊死、感染、瘢痕、組織欠損、皮弁による再建──こうした「治癒の難しい状態」を治す技術の蓄積です。やけど、外傷、糖尿病性潰瘍、術後創部離開、放射線後の組織障害。これらと向き合ってきた経験が、美容医療の合併症対応にもそのまま使えるのです。
具体的には:
- ヒアルロン酸塞栓による皮膚壊死 → ヒアルロニダーゼ注射、創傷管理、必要なら皮弁再建
- 注入による感染、膿瘍 → 切開排膿、抗生剤、瘢痕を最小化する縫合
- 手術後の創部離開や瘢痕拘縮 → 瘢痕形成術、皮弁による被覆
- 脂肪吸引後の凹凸、皮膚壊死 → 脂肪移植による補正、瘢痕修正
これらは形成外科の日常診療です。
ところが、沖縄県内では「美容外科・美容皮膚科」を掲げているクリニックの数に比べ、形成外科専門医のいる施設が限られています。県内の大学病院は一つです(個人的には、大学病院が一つということは、選択の幅が狭まったり、独占的な状況となっていることがあり、良い環境ではないと思っています)、いくつかの中核病院(撤退し形成外科不在になった施設もあります)、そして数えるほどのクリニック(ほとんどが那覇に集中しており、私含め中部4カ所、北部1カ所にとどまります(2026年6月現在))。県外なら他の施設を探すのも比較的容易ですが、沖縄では選択肢が狭くなりがちです。
つまり、合併症が起きてから「形成外科を探さなくては」となっても、すぐにアクセスできるとは限らない、ということです。
契約前に確認しておくべきこと
これらを踏まえて、施術を受ける前に、必ずクリニックに確認しておきたい項目をまとめます。
1. 合併症が起きた場合の対応窓口
- 平日昼間以外(夜間・休日)に何かあったら、どこに連絡すればよいか
- 連絡してから医師と話せるまで、どれくらいの時間がかかるか
- 緊急時に対応してくれるのは、担当医本人か、当番の医師か
2. 修正・再施術の料金体系
- 想定と違う結果になった場合、無償での修正があるか
- ある場合、どの範囲で適用されるか(期間、回数)
- ない場合、修正料金はおおよそいくらか
3. 担当医の継続性
- 担当した医師に、半年後・1年後にも連絡が取れるか
- 担当医が退職した場合、誰が引き継ぐか
4. 合併症発生時の他院連携
- 自院で対応できない合併症が起きた場合、どこに紹介してもらえるか
- 紹介状を書いてもらえるか
- 紹介先の費用はどうなるか
これらに明確に答えられないクリニックは、施術後のトラブル対応の体制が整っていない可能性があります。
「自分のクリニックで起きた合併症」を治せるかどうか
医療の質を測る、もうひとつの視点を共有させてください。
それは、「自分のクリニックで起きた合併症を、どう対応するか」です。
合併症が起きるかどうかは、技術と運の問題で、完全には避けられません。ですが、起きたあと、その医師が自院で責任を持って治療対応できるかどうかは、その医師の総合的な力量を示します。
「合併症が起きたら、大学病院に紹介します」というクリニックは、ある意味で潔いとも言えますが、見方を変えれば、「自分では対応しきれないリスクのある施術を行っている」ということでもあります。
ここで再び、形成外科専門医という資格の意味が浮かび上がります。第2回で「形成外科は皮膚と組織を扱う外科の総合領域」とお話ししました。その研修内容には、合併症対応に必要な手技がすべて含まれています。だからこそ、形成外科専門医が施術を行うクリニックは、自院で起きた問題を自院で解決できる可能性が、構造的に高くなります。
これは資格そのものの問題ではなく、研修期間に何を経験したかという、医師としての履歴の問題です。
私自身に関していえば、クリニックで安全に対応できることは行います。しかし、CTなどの精査が必要・迅速な採血結果確認が必要・マンパワーが必要などの場合では、連携している近くの総合病院に連絡・紹介し自身も一緒に対応します。若いころに外科研修を1年以上行ってはおりますが、万が一消化管の合併損傷が起こった場合などは消化器外科の先生にお願いするしかないのが正直なところです。その際には前職の施設に依頼し、自身もその治療がうまくいくよう積極的に働きかけるつもりでおります。
さらに広い分野が含まれている形成外科学は、たとえ専門医であっても、一人ですべての領域をそつなくこなすことは困難ですし、その様な医師を見たことがありません。したがって、形成外科の範疇の疾患であっても紹介することはよくありますし、どの先生がどのような手術が得意ということもある程度は知っておりますので患者さんが幸せになることを願い、その分野に長けている先生に紹介することもあります。
困ったときの相談先
最後に、もしすでにトラブルが起きていて、どこに相談すればよいか分からない方のために、公的な相談窓口をご紹介します。
消費者ホットライン 電話:188(いやや!) 契約や料金に関するトラブル全般を扱います。お住まいの地域の消費生活センターにつながります。
医療安全支援センター 各都道府県・保健所に設置されています。沖縄県は「沖縄県医療安全支援センター」が、那覇市・浦添市などにも別途センターがあります。医療内容に関する相談を受け付けています。
形成外科専門医のいる医療機関でのセカンドオピニオン 合併症の状態について、別の医師の意見を聞くことには大きな意味があります。受けたクリニックでの説明に納得できない場合、他院でセカンドオピニオンを取ることは、患者さんの権利です。私も、経過が思わしくない場合には積極的に他院で意見を聞くことを勧めております。
トラブルを抱え込まないでください。早期に相談すれば、対処の選択肢が広がります。
「合併症の話をきちんとしてくれる医師」を選んでください
シリーズを通してお伝えしてきたのは、「華やかな宣伝の裏側に何があるか」を見る視点でした。
合併症の話は、宣伝には向きません。だからこそ、カウンセリングできちんと合併症について説明してくれる医師、起きたときの対応を具体的に語れる医師は、それだけで信頼に値します。
「うまくいく前提」の説明しかしない医師よりも、「うまくいかなかったときのことも、はっきり説明する医師」を選んでください。後者は、自分の施術に責任を持つ覚悟がある証拠だからです。
次回はいよいよ最終回。沖縄で美容医療を受けるという選択について、そして地元のクリニックで長く通える関係性について、お話しします。シリーズの締めくくりとして、私自身がこの仕事をどう考えているかも、率直にお伝えしたいと思います。
美容医療を正しく選ぶための連載内容
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沖縄の美容医療の現状
今回のテーマである市場の変化と現状について。 -
形成外科専門医の資格
医師選びの客観的な指標となる資格の意味。 -
カウンセリングの見極め方
即日契約や不安を煽る話法、見積りのチェックポイント。 -
自由診療の価格設定
モニター価格や極端に安い料金設定の仕組み。 -
トラブル時の責任と対応
万一の合併症が起きた際の修正と現実。今回。 -
沖縄で受ける美容医療
地元で長く通える信頼関係の構築について。
貴クリニック 院長 東盛貴光
形成外科専門医・形成外科指導医
このブログは毎月8日、18日、28日に更新します
