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「直美」について

[2025.01.21]

「直美(ちょくび)」という言葉をご存じでしょうか?

 端的に言うと、医学部を卒後義務となっている2年間の基本診療科(内科、外科、小児科、産婦人科など)の1-3カ月ごとの研修を終えた若い医師が基本診療科へは進まずに、接美容外科に就職し、容外科医として働き始めることです。

 若くして病院研修医よりもはるかに高収入に恵まれますが、医師としての大事な経験、倫理観などの多くを学ぶ場を失うリスクも高いと思っています。

昨今のSNS問題や悪質な勧誘などの悪いニュースからも今後決して明るい分野ではなく、将来的に売り上げは見込めないとも言われております。

 また、直美になると、形成外科などの専門資格研修を行うこともないので基本的な技術がどうしても欠けているところがあります。偏った施術のみ指導を受け、過大広告のSNSを駆使して広告し患者さんを集めて売り上げを伸ばしていくといったことで昨今問題になっていることはご存じかと思います。術後の合併症に対する対応もままならない施設があります。

 もちろんまっとうに形成外科専門研修を終え、高い倫理観を持って使命感に燃えて美容医療を行っている先生も多くいらっしゃいます。県内だと当山美容形成外科がその代表でしょうか。国内では高須クリニックなどはそう思います。(お二人の院長は存じあげないと思いますが、実は形成外科学会専門医試験が同じ日でした(笑))

 私が研修医のころは、今とは違い医学部を卒業したあとは目指す診療科の医局に所属し、その医局が責任をもってマネージメントを行い専門医まで導く、、、というのが通常の流れでした。特に形成外科という診療科は比較的体表面の外科であり、また、各種がんの切除を行った後の再建外科としての側面も持ち合わせていることから、外科の本質を知らないで形成外科をやることは本物になれない、また広く外科に関係することも学ばなくてはならない、、、、などで、最初の2年間は医局が契約をしている施設の一般外科や麻酔科などで研修をするのがどこの大学病院でも一般的な流れでしたし私自身もそのような道を歩んできました。2年間の外科時代には、急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術、盲腸(アッペ:急性虫垂炎)やソケイヘルニアは毎日のように執刀し、乳がん手術、下肢バイパス手術、胃がん・大腸がん・肺がん手術なども指導医の下でこなしてまいりました。またそれに関連して麻酔科研修は本格的には行いませんでしたが、麻酔科医の手が足りなくて一人で全身麻酔や腰椎麻酔を行って盲腸の手術をしたこともありました(今では問題かもしれません)。

今ではそれが貴重な経験、財産となっています。外科から大学病院の形成外科に戻った時には全身管理を任されるようになり、気管内挿管、中心静脈カテーテル管理、スワンガンツカテーテル挿入と管理、胸腔ドレーン管理、内シャント造設などの透析管理などを行いながら、単独の診療科で全身熱傷をたくさん診てきました。

 私の所属した医局でも2010年前後から専門医を取得した翌日に医局に辞表を出して何らかの適当な理由を付けて美容外科にすすんだ後輩が増え始めた印象があります。辞める時の理由として、訪問診療や別の診療科に興味があるので移りたい、親が病気で近くで看病しながら働かないといけない、夫が転勤で遠くに行くのでついていかないといけない、、、などは当たり前であり、極めつけは実家が温泉を掘り当てたので家業を手伝わなくてはならない、、、、などなど、びっくりするような理由で大学を去っていきました。信憑性を疑いますし、実際にネットですぐに美容クリニックに努めていることは容易に検索できました。

 2007年ごろから医局独自の研修システムでは質や程度に差があり過ぎるとのことで今の研修システムが義務化されました。当時はスーパーローテートと呼ばれておりました。医学部を卒業後は大学のみならず市中も含めた総合病院の持つ研修プログラムに沿って2年間研修を行います。その後医師3年目に本当の就職となります。そこで基本診療科とされる内科、外科、産婦人科、小児科などへは進まず、美容外科に就職する若い先生がとても増えました。現在のところ、「美容外科」単独では基本診療科ではありませんので大学病院にそのような医局はありません。「形成外科・美容外科」としている施設がほとんどです。

その一方で直美の先生は直接大手などの美容外科クリニックへ就職します。まだ美容に関連した合併症とその対応、基本的な手技もできないうちに就職することになります。

 話はそれますが、それに伴い市中の総合病院に就職する若い先生が増え、大学病院への就職が当たり前であった私の若いころとは激変したことで、大学病院も改革を迫られることとなりました。若い先生が入職してくれる魅力ある研修システムを構築する必要が大学にも出てきました。当時の大学といえば薄給で長時間労働は当たり前、その先にある学位、専門医、教授職などを目指す野心のある若者であふれていたかと思いますがいまではワークライフバランスもあり、それでは家庭が成り立たず、また専門医(工夫すれば学位も)は大学病院でなくても取得できるようにもなり、ますます大学離れが進みました。

今回、献体に対する倫理観を欠いたSNS投稿事件でかなり騒がれ、日本形成外科学会も(その医師は学会員ではありませんが)問題視し断乎許せない旨の声明文を発表しております。「直美」は総合的にみて良くないと私は思います。

ぜひとも今後の研修生後改正が適切な方向になされることを願います。

最後に下記記事を添付します。

以下引用抜粋(日経メディカルより)

 近年、美容医療における不適切な医行為を原因とするトラブルが問題となっている(関連記事:厚労省検討会、安全で質の高い美容医療提供のための報告書案公表)。背景には、「直美(ちょくび)」と呼ばれる、初期研修修了後すぐに美容医療クリニックに就職するスキル不足の医師の増加や、施術後のフォローアップ体制が整っていない医療機関の存在などがあると言われている。実際、美容医療の施術後に合併症を生じた患者が、施術を受けた美容クリニックで対応してもらえず、保険医療機関に駆け込むケースも少なくない。

 医学生や医師向けにキャリア指導も行っている、Dr.孝志郎のクリニック(東京都豊島区)院長の藤澤孝志郎氏は、最近、美容外科手術の後に合併症を発症した患者を診療した経験を持つ。藤澤氏に、対応時の状況や、美容医療の道を志す若手医師に伝えたいことを聞いた(インタビューは敬称略)。


──先生は最近、美容医療クリニックで施術を受けた後、合併症を発症した患者を診療されたそうですね。どのような状況だったのか教えてください。

藤澤孝志郎氏●ふじさわこうしろう氏。宮崎大学卒。総合内科専門医。Dr.孝志郎のクリニック院長。医学教育のパイオニアとして知られる。近年では医学英語を取り入れた授業も実施しており、全国の大学医学部にて好評を博している。

藤澤 この患者は、都内の美容医療クリニックで頭頸部の脂肪吸引の施術を受けました。施術後しばらくして喉の閉塞感が表れたため、施術を受けたクリニックに連絡したものの営業時間外で連絡が取れなかった。そこで、直接クリニックに向かうもシャッターが閉まっていて、どうしようもなかったそうです。たまたま、患者のご家族が私の診療所に通っていたため、ご家族を経由して私に連絡が来ました。

 私のクリニックは救急医療に対応できる検査設備が整っていないため、近隣の病院と連携してCTを撮るなどの対応をし、頸部の皮下血腫を合併していることが判明しました。この患者は、運良く保険医療機関で対応してもらえて助かりましたが、皮下血腫は頭頸部の脂肪吸引で注意しなければならない合併症です。実際に、頭頸部の脂肪吸引後、皮下血腫を合併して死亡した事故も起きています。

 ただ、私が本当に許せなかったのは、私たちが被害者の診療をしていた時刻に、施術を行った美容医療クリニックの担当医は飲食店でシャンパンタワーを楽しんでいて、その様子をSNS(交流サイト)に上げていたことです。施術を受けた患者が苦しんでいる時に何をしているのか、施術後のフォローアップもきちんとせず、医師としての倫理観や責任感といったものはないのかと思い、後日、そのクリニックに電話しました。

 すると、その担当医はそのような事態を把握していなかっただけでなく、「うちでは合併症を診ることはできない」とはっきり言いました。こちらで患者を助けたことを伝えても、他人事のように返事をするだけでした。医師免許を金もうけのために使い、医療人としての責任も果たさないような医師が医行為をしている現状は、医学教育に携わる者として非常に腹立たしいです。

「美容医療は地獄の1丁目」

──「直美」と呼ばれる若手医師が問題になっています。美容医療が、医師のキャリアの一つとして医学生から挙がるようになったのは、いつからですか(関連記事:美容医療への転身、考えたことがある20歳代医師は4割)。

藤澤 長年、医学教育に携わってきましたが、医学生から美容医療を志望する声が聞かれ始めたのは3年ほど前からでしょうか。それまで美容医療を志望する学生は、私の周りではほとんどいませんでした。学生の意識が変化している背景の一つには、「保険診療の限界」があると思います。

 赤字の病院は増えてきていますし、開業しても、思ったよりも稼げない医療機関も増えてきました。そういった現状を若い人は敏感に察知しています。例えば、私のように総合内科専門医の資格を取る場合、初期研修終了後10年くらいの時間が必要になります。昔だったら、専門医資格を取れば収入も増えるし、1人前の医者になろうと地道に頑張る人が多かったですが、今はそこに夢を抱けない学生が増えている印象です。

 若手だけでなく、卒後10年目以上の中堅医師の中にも美容医療の道に転身する医師が出てきました。大学病院などはギリギリの人員で回していて、そういった環境に限界を感じて道を変える医師は昔からいましたが、今では美容医療の世界がその医師たちの受け皿の一つになっています。美容医療クリニックにおいても十分に医師の研修制度が整っていて、利用者に被害が生じないシステムになっていれば、医師の第2の道としていいと思います。ただ、実際は研修システムが整っているクリニックはほとんどないと聞いています。

──美容医療の道を志す若手医師にアドバイスをください。

藤澤 私は美容医療業界を「地獄の1丁目」と呼んでいます。美容医療に携わる若手医師のSNSをのぞくと、キラキラした世界が広がっているように見えますが、内情を知ると真逆の世界です。一方で、これは本来良くないことですが、やはり保険診療は医師の頑張りによって支えられている部分が大きいです。大変な労働環境であることも多いですが、それでも保険診療の医師には人の命を救うという、他の多くの職業にはない魅力とやりがいがあるのは事実です。また、一定の臨床経験を積み、患者としっかり向き合うことで医師としての倫理観や責任感も芽生えます。

 ただ、保険診療をほとんど経験せずに「直美」として働く若手医師には、そのような感覚はなく、大変な保険診療の現場に戻ってこられるとは到底思えません。実際、整形外科医として働きたいと美容医療クリニックを辞めた若手医師を知っていますが、結局は別の美容医療クリニックに再就職しました。一度甘い蜜を吸ってしまったら、もう二度と戻ってこられないのでしょう。若い医師にはそういった覚悟があるか、熟考してほしいです。

──最後に、冒頭で紹介したケースを踏まえて、医学生に医師国家試験対策を教えているお立場から、伝えたいことがあるそうですね。

藤澤 今回、私が診察した患者は、頭頸部の脂肪吸引により合併症として皮下血腫を生じたケースでした。知っておいてほしいのは、医師国家試験の「甲状腺全摘出術を行う場合、術前に説明すべき合併症はどれか」(109D20)という問題です。

 この問題の回答選択肢には「血腫」があります。甲状腺全摘出術では血流が豊富な部位を切除するため、術後合併症として皮下血腫が生じ、気道閉塞にまで発展する可能性があります。頸部の脂肪吸引では甲状腺に近い部位を切開するため、甲状腺全摘出術と同様に、術後合併症の血腫に注意しなければいけません。

 どのキャリアに進むにせよ、医師免許を持っている以上は知っていてほしい知識ですね。

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